『こころ日誌・インスペクシオ』#23 ひかり
ひかり
「ハァ...」
世間はクリスマスイブだというのに、私は自分の部屋で一人、深いため息をついた。
「完全には取れませんでした。申し訳ありません」
近所のクリーニング屋さんのお姉さんのセリフ。
顔を上げると、先週下ろしたばかりのダウンコートの右側の腰のあたりの二本の血の筋。クリーニングから返ってきても尚、うっすらと残っている。
でも、ため息の理由はそれだけじゃない。
つい今しがた受けた学校から...正確には金井先生からの電話が私の気持ちを重くしていた。
今日、終業式だったけど、菜摘はあれから一日も学校に来ていないそう。それももちろん心配なんだけど、そのくらいで金井先生がわざわざ勤務日でもない私に電話をかけてきたわけじゃない。
問題は、菜摘の父親。今日学校に電話があって、学校の安全配慮義務違反を訴えてきたということらしい。それで明後日、26日に校長と父親が面談することになったから、そこに臨時で同席してもらえないかという内容だった。
明後日......久しぶりのひかりとの温泉旅行。その日はひかりが見つけてきた新城の方にある温泉旅館を予約していた。
朝から二人でひかりの車に乗せてもらって、食べ歩きしながら行く予定だ。
既に私もネットでいろいろ検索して寄りたい場所をピックアップしていた。
宿のホームページを見ると風情豊かな温泉や美味しそうなお料理の写真が並ぶ。
温泉につかって、その後は一緒にこのお料理を食べて、お酒飲んで、院生時代みたいに、いっぱい語りあかすんだって、ワクワクしてたのに......。
どうしよう。多分、非常勤の私は勤務日でない以上、断っても問題はないはずだ。
でも、本当に行かなくていいの?
目の前のハンガーラックにぶら下がっているコートについた血の跡を見ていると、なんだかすごく胸がざわつく。
――タタタタタタタタタタタタ
不規則な電子音による呼び出しコールが耳元で響く。
LINEメッセージで話そうかとも思ったが、話が複雑すぎて説明するのがややこしくなるので、通話で話すことにした。
しばらくの呼び出しコールの後、通話がつながった。
「あ、ひかり?今いい?」
「え~、今からデートなんだけど......なにかあった?」
「そうよね......ごめん、実は......明後日の件なんだけど......」
私は個人が特定されない範囲で、事情が伝わる最低限の説明をした。
「マジ?」
「マジ」
「その保護者が来るのって、何時からなの?」
「夕方4時...」
「遅いね。しかも何時に終われるかなんてわからないよね。終わってから行くと、すごく遅くなっちゃうじゃん」
「そうなの」
「仕方ない。今回は諦めるか」
「えぇ~、私すごく楽しみにしてたのに。ひかりと絶対温泉行きたい!」
「でも、アンタ、そしたら次に学校行くのはいつ?」
「年明け」
「その時にはアンタのクライアントの子、もう学校にいないかもしれないよ」
「え?」
「まぁ、可能性だけどね。ないことはなくない?」
確かに。ないことはないのかも。
「いいよ。温泉はまたいつでも行けるし。その代わり、キャンセル料、アンタ持ってよ」
「え~、絶対行きたかったのにぃ......けど、ありがとう」
ーーーーーーー
世間はクリスマスイブだというのに、私は自分の部屋で一人、深いため息をついた。
「完全には取れませんでした。申し訳ありません」
近所のクリーニング屋さんのお姉さんのセリフ。
顔を上げると、先週下ろしたばかりのダウンコートの右側の腰のあたりの二本の血の筋。クリーニングから返ってきても尚、うっすらと残っている。
でも、ため息の理由はそれだけじゃない。
つい今しがた受けた学校から...正確には金井先生からの電話が私の気持ちを重くしていた。
今日、終業式だったけど、菜摘はあれから一日も学校に来ていないそう。それももちろん心配なんだけど、そのくらいで金井先生がわざわざ勤務日でもない私に電話をかけてきたわけじゃない。
問題は、菜摘の父親。今日学校に電話があって、学校の安全配慮義務違反を訴えてきたということらしい。それで明後日、26日に校長と父親が面談することになったから、そこに臨時で同席してもらえないかという内容だった。
明後日......久しぶりのひかりとの温泉旅行。その日はひかりが見つけてきた新城の方にある温泉旅館を予約していた。
朝から二人でひかりの車に乗せてもらって、食べ歩きしながら行く予定だ。
既に私もネットでいろいろ検索して寄りたい場所をピックアップしていた。
宿のホームページを見ると風情豊かな温泉や美味しそうなお料理の写真が並ぶ。
温泉につかって、その後は一緒にこのお料理を食べて、お酒飲んで、院生時代みたいに、いっぱい語りあかすんだって、ワクワクしてたのに......。
どうしよう。多分、非常勤の私は勤務日でない以上、断っても問題はないはずだ。
でも、本当に行かなくていいの?
目の前のハンガーラックにぶら下がっているコートについた血の跡を見ていると、なんだかすごく胸がざわつく。
――タタタタタタタタタタタタ
不規則な電子音による呼び出しコールが耳元で響く。
LINEメッセージで話そうかとも思ったが、話が複雑すぎて説明するのがややこしくなるので、通話で話すことにした。
しばらくの呼び出しコールの後、通話がつながった。
「あ、ひかり?今いい?」
「え~、今からデートなんだけど......なにかあった?」
「そうよね......ごめん、実は......明後日の件なんだけど......」
私は個人が特定されない範囲で、事情が伝わる最低限の説明をした。
「マジ?」
「マジ」
「その保護者が来るのって、何時からなの?」
「夕方4時...」
「遅いね。しかも何時に終われるかなんてわからないよね。終わってから行くと、すごく遅くなっちゃうじゃん」
「そうなの」
「仕方ない。今回は諦めるか」
「えぇ~、私すごく楽しみにしてたのに。ひかりと絶対温泉行きたい!」
「でも、アンタ、そしたら次に学校行くのはいつ?」
「年明け」
「その時にはアンタのクライアントの子、もう学校にいないかもしれないよ」
「え?」
「まぁ、可能性だけどね。ないことはなくない?」
確かに。ないことはないのかも。
「いいよ。温泉はまたいつでも行けるし。その代わり、キャンセル料、アンタ持ってよ」
「え~、絶対行きたかったのにぃ......けど、ありがとう」
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