『こころ日誌・インスペクシオ』#30 あれから
あれから
新しい年が明けた。
実家に帰省していた私は、大みそかには紅白を見て年越しそばを食べ、元旦は朝から家族みんなで恒例の初詣に出かけた。例年と違うのはお姉ちゃんが赤ちゃんを抱いてるってこと。初孫にデレデレなお父さんが、彼氏もいない私にも結婚はまだかと無神経に圧をかけるのがうっとうしかったが、それなりに息抜きはできた。
実家から帰ってきてしまえば、すぐにまた日常が始まる。私の新年最初のSC勤務日は9日だった。実家に帰省したときには持って帰らなかった白いダウンコート。いまだ取れない赤い筋を確認する。
「ふ~っ」
私は一息長めの息を吐くと、それに身を包んで家を出た。
地下鉄の駅から学校まで向かう足はやたらと重い。実家で気晴らししてきたつもりだったのに、やっぱり仕事に行くってキツイな。でも、なんだろう。前はここまでは重くはなかったような。
――ヒュー~~
下半分をマフラーで覆われた顔に冷たい北風が当たる。
「先生の優しさは美しいが、現実の危機管理においては時に障害となります」
あれから何回思い出しただろうか分からない言葉。
気持ちが......重い。
「こんにちは~」
職員室に入ると、私はいつものように挨拶をした。年始なので「明けましておめでとうございます」って言った方が良いのかなって思わなくもないけど、もう9日。学校の始業式は7日だったし、私以外の先生方はもうとっくに済んでいる挨拶。ちょっと今更感がある。
近くにいる先生方が「こんにちは」と返してくれるが、これもまたいつもと同じ。職員室にいる忙しい先生たちには意識の一瞬のゆらぎですらなく、単に無意識の反射で返事をしているような感じ。
あんなことがあったのに......何も変わらない職員室。
あれから......学校がどう動いたのか、私は何も聞かされていない。
私はいつものように非常勤用の机の引き出しからSC予定表の1月9日の欄を確認する。
ここ数ヶ月、ほぼ毎回指定席のように「2年3組工藤カケル」と入っていた授業後最初の枠、そこに彼の名前はなかった。
代わりに入っていたのは......「特別指導案件」
――キーンコーンカーンコーン
4時間目のチャイムと共に、
「生徒指導連絡会始めま~す」
前と変わらない佐々木先生の声が職員室に響いた。
ゾロゾロと小会議室にメンバーが入室してくる。新年を迎え一回目の連絡会。だがどこか重々しい感じがする。
田中先生......なんか、一回り小さくなったように見える。
「それでは、皆さん、今学期一発目ですね。第25回生徒指導連絡会を始めます。それでは学年の様子、一年生余語先生お願いします」
佐々木先生の声はいつもと変わらない。
1年生主任の余語先生の報告が淡々と進み、2年生の番になった。
田中先生がゆっくりと立ち上がる。
「2年生です。……3組、工藤カケルについて報告します」
私は息を飲んで、次の言葉を待った。
「工藤は……今月末付で、自主退学することになりました」
ーーーーーーー
実家に帰省していた私は、大みそかには紅白を見て年越しそばを食べ、元旦は朝から家族みんなで恒例の初詣に出かけた。例年と違うのはお姉ちゃんが赤ちゃんを抱いてるってこと。初孫にデレデレなお父さんが、彼氏もいない私にも結婚はまだかと無神経に圧をかけるのがうっとうしかったが、それなりに息抜きはできた。
実家から帰ってきてしまえば、すぐにまた日常が始まる。私の新年最初のSC勤務日は9日だった。実家に帰省したときには持って帰らなかった白いダウンコート。いまだ取れない赤い筋を確認する。
「ふ~っ」
私は一息長めの息を吐くと、それに身を包んで家を出た。
地下鉄の駅から学校まで向かう足はやたらと重い。実家で気晴らししてきたつもりだったのに、やっぱり仕事に行くってキツイな。でも、なんだろう。前はここまでは重くはなかったような。
――ヒュー~~
下半分をマフラーで覆われた顔に冷たい北風が当たる。
「先生の優しさは美しいが、現実の危機管理においては時に障害となります」
あれから何回思い出しただろうか分からない言葉。
気持ちが......重い。
「こんにちは~」
職員室に入ると、私はいつものように挨拶をした。年始なので「明けましておめでとうございます」って言った方が良いのかなって思わなくもないけど、もう9日。学校の始業式は7日だったし、私以外の先生方はもうとっくに済んでいる挨拶。ちょっと今更感がある。
近くにいる先生方が「こんにちは」と返してくれるが、これもまたいつもと同じ。職員室にいる忙しい先生たちには意識の一瞬のゆらぎですらなく、単に無意識の反射で返事をしているような感じ。
あんなことがあったのに......何も変わらない職員室。
あれから......学校がどう動いたのか、私は何も聞かされていない。
私はいつものように非常勤用の机の引き出しからSC予定表の1月9日の欄を確認する。
ここ数ヶ月、ほぼ毎回指定席のように「2年3組工藤カケル」と入っていた授業後最初の枠、そこに彼の名前はなかった。
代わりに入っていたのは......「特別指導案件」
――キーンコーンカーンコーン
4時間目のチャイムと共に、
「生徒指導連絡会始めま~す」
前と変わらない佐々木先生の声が職員室に響いた。
ゾロゾロと小会議室にメンバーが入室してくる。新年を迎え一回目の連絡会。だがどこか重々しい感じがする。
田中先生......なんか、一回り小さくなったように見える。
「それでは、皆さん、今学期一発目ですね。第25回生徒指導連絡会を始めます。それでは学年の様子、一年生余語先生お願いします」
佐々木先生の声はいつもと変わらない。
1年生主任の余語先生の報告が淡々と進み、2年生の番になった。
田中先生がゆっくりと立ち上がる。
「2年生です。……3組、工藤カケルについて報告します」
私は息を飲んで、次の言葉を待った。
「工藤は……今月末付で、自主退学することになりました」
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