こころ日誌#1
プロローグ
「痛い・・・痛いよぉ」
自分の体にナイフが刺ささっているのを見た女の子は恐怖と苦痛に顔をゆがめる。
「やめて・・・お願いだからもうやめて」
一生懸命、心底お願いした。それでも、その声は決して届かない。
グサッ。
次に刺さったのは包丁だ。
一瞬で気絶しそうな痛みに、もんどりうつ。
それでも立つことを強制される。抗うことができない圧倒的な暴力に、脳は体から送られてくる信号を受け取ることを拒否し始めた。
グサッ、グサッ。
槍、刀剣。
もう女の子の体は痛みの信号を脳に送っても無駄だと言うことを認識したのだろう。信号を遮断する作業に入ったようだ。
それでも攻撃はやまない。意識は完全に体の痛みを切り離してしまった。
グサッ、グサッ、グサッ、、、
もう痛みは感じない。体中ボロボロになっていくのに、まるで血の通っていない人形が滅多刺しに遭っているのを無感情に見ているような感覚だ。
既に体の感覚だけではなく、恐怖も感じなくなってしまったのか、いつしか女の子の顔は笑っている。
それは・・・全てを諦めた笑い。
もはや女の子を生につなぎとめる理由などありはしない。
女の子は願った。。。
「殺して」
自分の体にナイフが刺ささっているのを見た女の子は恐怖と苦痛に顔をゆがめる。
「やめて・・・お願いだからもうやめて」
一生懸命、心底お願いした。それでも、その声は決して届かない。
グサッ。
次に刺さったのは包丁だ。
一瞬で気絶しそうな痛みに、もんどりうつ。
それでも立つことを強制される。抗うことができない圧倒的な暴力に、脳は体から送られてくる信号を受け取ることを拒否し始めた。
グサッ、グサッ。
槍、刀剣。
もう女の子の体は痛みの信号を脳に送っても無駄だと言うことを認識したのだろう。信号を遮断する作業に入ったようだ。
それでも攻撃はやまない。意識は完全に体の痛みを切り離してしまった。
グサッ、グサッ、グサッ、、、
もう痛みは感じない。体中ボロボロになっていくのに、まるで血の通っていない人形が滅多刺しに遭っているのを無感情に見ているような感覚だ。
既に体の感覚だけではなく、恐怖も感じなくなってしまったのか、いつしか女の子の顔は笑っている。
それは・・・全てを諦めた笑い。
もはや女の子を生につなぎとめる理由などありはしない。
女の子は願った。。。
「殺して」
出会い
どんなに経験を積んでも初回のカウンセリングはやはり少なからず緊張がある。客を迎えるのに恥ずかしくない程度に相談室の掃除をし、クライアントに出す茶菓子の準備を済ませた後、自分用のコーヒーを淹れる。約束の時間まではまだ30分程度ある。手持ち無沙汰で落ち着かない気持ちを大好きなコーヒーの香りでリラックスさせつつ、私は今から会うクライアントの情報を再確認すべく、パソコンを起動させた。
「上手くラポールを築けると良いけど」
コーヒーを口に含みながら独り言をつぶやく。ラポールとはカウンセラーとクライアントの間で築く信頼関係のことだ。今日は母子での来談と聞いている。どんな人が来るんだろうかと想像を巡らせる。カウンセリングには実に様々なクライアントが相談に訪れる。どんなクライアントが来ても、こちらを信用してもらうことがカウンセリングをうまく進めるためには絶対必要条件だということに変わりはない。ラポールが築けないとどんなに腕のいいカウンセラーでも、クライアントの問題解決に寄与することは難しい。逆を言えば、ラポールを築くのが上手い人ほどカウンセリングの腕もいい。そんなことを思っている内にパソコンの起動が完了する。起ち上がったデスクトップにたくさん並んでいるアイコンの中から、一番右下にあるケース管理のアプリを確認しダブルクリック。起ち上がったアプリ上で、新規ケースのフォルダを開け、「山野カオリ」というファイルを開ける。まだ事前申し込みの段階なので、得られる情報は多くはない。「11月4日(火)13時初回受理面接予約受理済」という項目の後に、住所氏名生年月日等の基本的なプロフィールと、守秘義務やキャンセル料を含めた相談室のルールに関する同意事項、来談経路などが並ぶ。そんな中で私は「中2女子、主訴:娘の不登校について相談したい」という情報に目を止める。不登校と言ってもかなりいろんなタイプがある。このクライアントはどんなタイプの不登校だろうか。母子での来談とのことだが、親子関係はどんな具合なんだろうか。など、想像をめぐらしている内に、約束の時間が近づいてきた。
「おっと、もう時間になっちゃうな」
私は一旦パソコンを落とした。
相談室奥にある簡易キッチンに行き、いつの間にかぬるくなってしまった飲みかけのコーヒーを流しに捨て、カップを水で簡単に洗う。それから相談室に戻り、記録用のA4の用紙とそれを挟むクリップボードを引出しから取り出し、ボールペンと一緒に机の上に置く。準備完了と思ったところでインターホンが鳴る音が聞こえた。
「上手くラポールを築けると良いけど」
コーヒーを口に含みながら独り言をつぶやく。ラポールとはカウンセラーとクライアントの間で築く信頼関係のことだ。今日は母子での来談と聞いている。どんな人が来るんだろうかと想像を巡らせる。カウンセリングには実に様々なクライアントが相談に訪れる。どんなクライアントが来ても、こちらを信用してもらうことがカウンセリングをうまく進めるためには絶対必要条件だということに変わりはない。ラポールが築けないとどんなに腕のいいカウンセラーでも、クライアントの問題解決に寄与することは難しい。逆を言えば、ラポールを築くのが上手い人ほどカウンセリングの腕もいい。そんなことを思っている内にパソコンの起動が完了する。起ち上がったデスクトップにたくさん並んでいるアイコンの中から、一番右下にあるケース管理のアプリを確認しダブルクリック。起ち上がったアプリ上で、新規ケースのフォルダを開け、「山野カオリ」というファイルを開ける。まだ事前申し込みの段階なので、得られる情報は多くはない。「11月4日(火)13時初回受理面接予約受理済」という項目の後に、住所氏名生年月日等の基本的なプロフィールと、守秘義務やキャンセル料を含めた相談室のルールに関する同意事項、来談経路などが並ぶ。そんな中で私は「中2女子、主訴:娘の不登校について相談したい」という情報に目を止める。不登校と言ってもかなりいろんなタイプがある。このクライアントはどんなタイプの不登校だろうか。母子での来談とのことだが、親子関係はどんな具合なんだろうか。など、想像をめぐらしている内に、約束の時間が近づいてきた。
「おっと、もう時間になっちゃうな」
私は一旦パソコンを落とした。
相談室奥にある簡易キッチンに行き、いつの間にかぬるくなってしまった飲みかけのコーヒーを流しに捨て、カップを水で簡単に洗う。それから相談室に戻り、記録用のA4の用紙とそれを挟むクリップボードを引出しから取り出し、ボールペンと一緒に机の上に置く。準備完了と思ったところでインターホンが鳴る音が聞こえた。