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『こころ日誌・インスペクシオ』#14 受診への道筋

『こころ日誌・インスペクシオ』#14 受診への道筋

受診への道筋

「そんなことがあって......、いつからかカケルは自分で自分のことを『欠陥品』って言うようになって…」
父親から否定と共に、投げつけられた診断名。それをカケルなりに調べたら突き当たったナチスの優生思想。そして、悪い方への拡大解釈。
カケルの現在を形造るパーツが組み上がっていく。
と、同時に、その造形に、いつも保育園で見ている発達障害児たちの可愛らしい笑顔がオーバーラップして胸が苦しくなる。

でも、ちょっと待って。
あの子たちも健診で引っかかった子たち。カケルもあの子たちと同じだとしたら......。

「お母さん、さっき健診でアスペルガーって言われて療育にかかってたっておっしゃいましたね。ということは、健診先の病院にカルテが残ってるかもしれません。一度問い合わせてみたらどうでしょうか。今から初診だとすごく待たされちゃいますが、再診枠ならもっと早くつながれると思います」
「そうなんですか?」
母親の顔が一瞬明るくなったように見えた。が、すぐにまた曇る。
「でも...、健診の後、カケルがかかってたのは小児科の病院なんです。カケルはもう17歳ですから、小児科では診てもらえないと思います。それに、かかってたのはもう10年も前の話ですから、カルテもあるかどうか」
「でも、問い合わせるだけ、問い合わせてみたらどうでしょうか。高校生のうちは診てくれるかもしれないし、それが無理でも精神科や心療内科に紹介状を書いてもらえる可能性は高いと思います。紹介状があれば早く診てもらえることは多いです」
「そうなんですか」
「お母さん、母子手帳の記録って残ってないですか?」
「それは、家に帰ればあると思います」
「それは是非探してみてください。後、療育手帳とかって取られたりしました?」
「いえ。健診の時、『言葉は遅れてないから知的な障害じゃない』って言われて、手帳はもらえなかったんです。ただ、『偏りが激しいから』って療育だけ勧められて……」
まさに知的な遅れがない発達障害の典型的なケース。
「なるほど。それなら、当時の母子手帳の健診のページに、お医者さんの所見が書いてあるかもしれません。『経過観察』とか『療育推奨』とか。それだけでも、今の精神科の先生に見せる大きな判断材料になります。是非その方向で受診してみたらと思いますが、いかがでしょうか。」
「そうですね。電話してみます」
田中先生から病院を勧められてすぐに調べてくれた母親だ。やはり困り感は高いのだろう。
一息ついた母親が呟くように言う。
「実は私......、今日来るの気が重かったんです」
「そうでしたか。そんな中、よくお越しくださいました」
「実は、中学でもスクールカウンセラーの人と会った事あるんです。その先生は一生懸命話は聞いてはくれたんですが、なんか私自身の親子関係とか聞いてきて、カケルの話はあまり聞いてくれないと言うか......。カケルの問題も、私の育て方の問題にしたいんだなっていう感じが汲み取れて、話が噛み合わなくてやめちゃいました。あの時、先生みたいに受診の方法を教えてくれれば、良かったのにって思います」

なんか褒められてるみたいで嬉しい。

「でも、もう遅いかもです。今から受診できても、もうこの学校にあの子の居場所は......」
そう言って力なく視線を机に落とす。
「もう一度言いますが、私は退学という話は聞いていません。反省文を提出して謹慎が終わってるので、もうクラスに戻ってますよね」
「それはそうなんですが......、あの子、反省って何を反省してるのか分かってないと思うんです。何度反省文を書いてもまた同じことしちゃったらって思うと」
「そのこと、気になってました。彼はなんであんなに綺麗な反省文を書けるんでしょうか」
「あの子、何度も何度も謝らされて、反省して、その繰り返しなんです。それで、反省文の書き方だけ上手になっていったんです」
何度も何度も......。
カケルの書く反省文から心が伝わらないのは、彼が反省していないからじゃない。
謝るたびに、自分を否定し、心を殺していったから......。
今、カケルの心は......もう息をしていないのかもしれない。
そんな想像が浮かび上がり、そして、目の前にいるくたびれた母親を見て、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。
「カケルくんには継続的に私がカウンセリングしていきます。カケルくんの本当の気持ち......話してもらえるように、聞いていきますね」
そう伝えると、母親は一度頭を下げて言った。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
こうして一回目の母親面接を終えた。

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最新話です。次回の更新をお待ちください。