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こころ日誌#18

心のエネルギーとイメージワーク

20〷+1年5月22日 カオリ#11  母親#7 母子合同面接
二人を迎え入れ、いつものように茶菓子を用意して二人の前に置く。
「こんにちは。その後調子はいかがですか?」と私は定型文の質問から始めた。
「実は、やっぱりあの後、行けない日が何日がありました。前日までは学校に行く準備をしているんですが、朝になるとお腹痛くなってトイレにこもっちゃうんです。それで、前回仰っていただいたので、病院に連れて行ったんです。近所の昔から行っている小児科なんですが、そこで、過敏性腸症候群って言われまして」
「そうでしたか。病院でそう言われてどう思われましたか?」
「病気なら行けなくても仕方ないのかなって。でも、過敏性腸症候群ってストレスが原因でなるんですよね」
「そうですね。その辺病院では何か言われました?」
「ひと通り説明されて、整腸剤が出たんですけど。カオリが薬飲みたがらなくて。。。」
「そうなんですね。お薬飲むの抵抗あるのかな?」
「そういうわけじゃないけど・・・苦くて」
「そっかぁ。ところで、前回お話したんですけど、例えば、朝学校行こうとしてお腹が痛くなったとして、収まってから遅刻して行くというのはどうですか?」
「それも話したんです。朝行けないとき、遅刻してでもいいから行きなさいって。でも、遅刻して学校に行くのを嫌がるんです。途中から教室に入ると、周りの目が一斉にこっちに向くのが耐えられないって」
「前に周りの目が怖いって言ってたもんね。ちょっと今日そのこと、詳しくお話したいです。まずは今まで僕がカオリちゃんやお母さんとお会いしてきて、カオリちゃんの学校に行けない状態をどう理解しているかということから説明させてください」私は改まって確認の意を伝えた。
「カオリちゃんが、周りの目が怖いって感じちゃうの。実はカオリちゃんが自分のことを弱いって思ってるからだと思うのね。自分が弱いから、周りが自分より強く見える。もし周りが自分を攻撃してきたらひとたまりもない。だから怖いって思っちゃうの。分かるかな」
「はい」
カオリも自覚があるのだろう。何の抵抗も示さず私の話を肯定した。
そこで私はつづけて質問する。
「なにがカオリちゃんを弱くしてると思う?」
カオリはあまり考える様子もなく答える。
「わかりません」
そこで私は説明口調になり話をつづけた。
「人が強くなるためには心のエネルギーが必要なのね。心のエネルギーが満杯まである人が強い人です。そして、カオリちゃんはそのエネルギーが少ないんだと思うの。前回にもお話したボンベが少ないっていうことです。それで、ダイビングの話で言うと、ボンベがなんで少ないのかって言うと、カオリちゃんが心の中でエネルギーを作り出す方法を知らないから。カオリちゃんが心の中でエネルギーを作り出す方法。それは今までここでしてきたこと。お母さんを感じて。。。お母さんをいっぱいいっぱいカオリちゃんが感じることで、お母さんの感覚がお母さんがいなくても感じることができるようになる。今まではお母さんがいてくれることで、カオリちゃんにエネルギーが補充されていたんだけど、お母さんがいなくても、カオリちゃんの中にお母さんがいてくれればカオリちゃんはいつもエネルギー切れになることはないんです。ここまで理解できるかな」
「理解はできます」
この理解「は」できるというのは、余り同意しないと言う意味か。
やや気になりつつも私は続ける。
「そして、カオリちゃんがエネルギーを自分の中で作り出せるようになれば、日常生活の中でエネルギー切れにおびえる必要がなくなるのね。つまり、周りの目が怖くなくなるってこと。それがちゃんとできてくれば、途中からも教室に入れるようになりますよ」
しかしカオリはその提案は受け入れられないといった様子で答える。
「最初から行けるようになりたいんです」
しっかりと自分の主張をできるようになってきているのはいいことである。しかし、現実的にできる選択をしていかないと最終的には潰れてしまうだろう。カオリはそれをGW明けに経験したばかりだ。
だから私は言う。
「それだけのメンタルになれるようにもちろん練習していくんだけど、段階を踏まないといけません」
そう促していつものようにグラウンディングを開始した。グラウンディングしながら、しっかりと10秒呼吸し、母親とリゾネイトしていく。
「さぁ、今カオリちゃん、緊張感を0から10の数字で表すといくつくらいかな?」
「今は3くらい」
「いいですね。今はとってもゆったりした気持ちになって、リラックスしていきましょう。ゆっくり深呼吸して。お母さんを感じましょう。数字を限りなくゼロに近づけていきましょう。だら~んとしていきましょう」
「そうですね。今は大丈夫です」
「緊張感はいくつくらいですか?」
「ゼロです」
「いいですね。それでは今からカオリちゃんの心を強くする練習をしていきますよ。ちょっとずつ、ちょっとずつでいいですからね。今、ほんのちょっとだけ教室をカメラ越しに眺めている自分を頭に思い浮かべてみましょう」

これはイメージワークだ。カオリに恐怖の対象場面を想起してもらう。カオリはボロボロに傷ついていて、安心感がないから怖いのだ。しっかりとグラウンディングし、リラックスした状態で、しかも自分は絶対安全な場面から入る。

「教室の様子をビデオカメラ越しに眺めている自分・・・想像することができますか?」
「はい」
「いいですね。そうしたら、さっきはゼロになった緊張感、今はいくつくらいですか」
「3くらいです」
「よく、頑張っています。今、その3くらい自分が緊張しているなっていうの、体のどこに感じますか?」
「胸がきゅって締まる感じです」
「その感じを感じながら、はい、お母さん、カオリちゃんの肩にしっかり手を置いてあげてください。カオリちゃんはお母さんの手が自分の肩に置かれているの、よく感じて。お母さんの手の重みを感じて。手の温かみを感じて。感じることできますか?」
「はい」
「それを感じながら、さっきの胸がきゅって締まる感じも感じていきましょう。今カオリちゃんはビデオカメラ越しに、教室の様子を眺めています。どんな気持ちですか?」
「緊張しないでも済む感じです」
「緊張感はいくつくらい?」
「今は1か2くらいです」
「では、お母さんの手のぬくもりを感じながら、その1か2くらいの感覚をもう少し味わっていきましょう」
私はカオリの表情を観察する。ゆったりとした雰囲気が見て取れたので、「どうですか。今の感じは?」と問う。
「もう何も感じなくなりました」とカオリは返事をした。

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