こころ日誌#4
出会い
面接後
二人を相談室の外に見送り、相談机の上に残されたウーロン茶とクッキーを片付けると、私は早速終わったばかりのケースの記録を書く。私はケースの記憶が薄れないよう、できるだけ終了後すぐに記録を書くことを心がけている。そのために、ケースとケースの間は30分は空けてある。記録にはその日の面接のまとめ、アセスメント、今後の方針を書く。アセスメントとは、問題発生メカニズムをやカウンセリングの最中に起こっている現象を心理学的視点から分析し、記述することである。
カオリが緊張が強く話せなかったこと。その緊張をほぐすべく呼吸の練習をしたこと。最後に母親が話した内容を簡単にまとめる。そしてアセスメント、方針の欄に以下のように書き込んだ。
アセスメント:
・表面的には本人のことを心配しているようで、カオリの気持ちに寄り添おうとせず、自己の都合を優先したい母親。
・カオリの不登校も本人の困り感に思いをはせるというよりは、面倒なことが起こったから早く解決したいという思いが滲み出る。
・このような母親との関係の中で十分な愛着が形成されなかったため、カオリは自身に対しても周囲に対しても安心を感じられず、常に過緊張状態で過ごしており、エネルギーは底をついていた。それが今回不登校という形で表面化したものと思われる。
方針:
・カオリ本人とは自律神経調整トレーニングを通じてレジリエンス(心の強さのこと)を高める。
・母親との関係がエネルギー供給になるために、母親自身の共感不全も治療ターゲットにする。
・次回並行面接を提案する。
そして私は記録用アプリの保存ボタンを押した。
カオリが緊張が強く話せなかったこと。その緊張をほぐすべく呼吸の練習をしたこと。最後に母親が話した内容を簡単にまとめる。そしてアセスメント、方針の欄に以下のように書き込んだ。
アセスメント:
・表面的には本人のことを心配しているようで、カオリの気持ちに寄り添おうとせず、自己の都合を優先したい母親。
・カオリの不登校も本人の困り感に思いをはせるというよりは、面倒なことが起こったから早く解決したいという思いが滲み出る。
・このような母親との関係の中で十分な愛着が形成されなかったため、カオリは自身に対しても周囲に対しても安心を感じられず、常に過緊張状態で過ごしており、エネルギーは底をついていた。それが今回不登校という形で表面化したものと思われる。
方針:
・カオリ本人とは自律神経調整トレーニングを通じてレジリエンス(心の強さのこと)を高める。
・母親との関係がエネルギー供給になるために、母親自身の共感不全も治療ターゲットにする。
・次回並行面接を提案する。
そして私は記録用アプリの保存ボタンを押した。
次回まで
こうして私は次回、11月18日の面接まで、当然のように入っている他のケースをこなし、家事や子育てにエネルギーを注ぎつつ過ごした。そんな中でカオリのことは時折頭に浮かべる。生活の中でどうしているだろうか、次回ちゃんと来てくれるだろうかと自然と考える。それはカオリが特別ということではなく、他のクライアントに対しても同じである。しかしそれに多くのエネルギーを割くことはない。次第に考えることも多くなくなっていく。
そうこうしていると、あっという間に2週間が起ち、18日の午前中の業務を終え、12時に差し掛かる。私は昼食用に自分で握ったしそわかめを混ぜたおにぎりを頬張りつつ、パソコン画面からケース管理アプリを起動する。いくつかあるアイコンの中から、「継続ケース」というフォルダを見つけてダブルクリックし、開いたケース一覧の中から「山野カオリ」というファイルを開く。
前回の記録に目を通しつつ、呼吸の時のカオリの表情やしぐさ、経過を語る母親の口調などを思い出す。時間が経って、記憶が薄れていても、記録を見ると、そのときの様子がかなり鮮明に思い出される。カオリや母親は初回の面接をどのように体験したんだろうか。カオリの緊張した様子や、母親の私に対する期待している様子は想像しやすい。しかしその裏に隠された、当然あるであろうカオリの「こんなところに来たくない。でも今の状況は何とかしたい」という気持ちや、母親にも「カウンセラーの言うことって、どこまで信用していいんだろうか」という気持ちがあるであろうことにも思いを馳せる。そして、できるだけその気持ちに浸る。
いつの間にか、私の手が持っているのはおにぎりから、コーヒーの入ったカップに変わっている。
一定程度の時間、コーヒーを飲みながら想像を巡らせる。方針を立てたように、カオリには呼吸の練習からヨガを取り入れた自律神経トレーニングを、母親には並行面接を提案しようと今日のセッションの中ですることを確認しつつ時間を待つ。しかし、時間になって、私の目論見は半分崩れることになる。
そうこうしていると、あっという間に2週間が起ち、18日の午前中の業務を終え、12時に差し掛かる。私は昼食用に自分で握ったしそわかめを混ぜたおにぎりを頬張りつつ、パソコン画面からケース管理アプリを起動する。いくつかあるアイコンの中から、「継続ケース」というフォルダを見つけてダブルクリックし、開いたケース一覧の中から「山野カオリ」というファイルを開く。
前回の記録に目を通しつつ、呼吸の時のカオリの表情やしぐさ、経過を語る母親の口調などを思い出す。時間が経って、記憶が薄れていても、記録を見ると、そのときの様子がかなり鮮明に思い出される。カオリや母親は初回の面接をどのように体験したんだろうか。カオリの緊張した様子や、母親の私に対する期待している様子は想像しやすい。しかしその裏に隠された、当然あるであろうカオリの「こんなところに来たくない。でも今の状況は何とかしたい」という気持ちや、母親にも「カウンセラーの言うことって、どこまで信用していいんだろうか」という気持ちがあるであろうことにも思いを馳せる。そして、できるだけその気持ちに浸る。
いつの間にか、私の手が持っているのはおにぎりから、コーヒーの入ったカップに変わっている。
一定程度の時間、コーヒーを飲みながら想像を巡らせる。方針を立てたように、カオリには呼吸の練習からヨガを取り入れた自律神経トレーニングを、母親には並行面接を提案しようと今日のセッションの中ですることを確認しつつ時間を待つ。しかし、時間になって、私の目論見は半分崩れることになる。