『こころ日誌・インスペクシオ』#8 盾
盾
「加納先生......そんな先生いたっけ?」
職員室の先生方の顔を思い浮かべる......「えっ?私???」
全く予想していなかった指名に、頭が一瞬遅れて呼ばれたのが自分だということに気づいた。
なんだろう......?絶対いい話じゃない。
そう思いながら、おずおずと職員室の前に出て行くしかない私の後ろ姿......金井先生にどう見られてるかなぁ。
「あぁ、加納先生、よかった。今2年3組の広瀬っていう生徒の親が来ていまして」
「あ、はい。さっき林田先生に聞きました」
「じゃ、話は早いですね。工藤について、怒っちゃってまして。加納先生から、工藤がどういう子か説明してあげてください。どうにも私たち教師はそっち系専門じゃないですから、納得してくれなくて」
私は心の準備もできないまま、半ば強制的に職員室前方から校長室に抜けるドアに通された。
「失礼します」
私が入室してきたのを確認した校長先生が穏やかな口調で言う。
「こちらが、本校スクールカウンセラーの加納です」
校長先生に紹介されて、私は反射的に頭を下げて挨拶をする。
「はじめまして。カウンセラーの加納です」
頭を上げた私の視線の先には、応接ソファーに座ったまま私をいぶかしがるような目で見つめる中年男性がいた。
「で、この子がどうしたって?」
今、この人、私のこと「この子」って言った?
バカにされている感じが悔しいが、表情に出さないように笑顔を作った。
「加納先生、先週工藤くんと会っていただきましたね。率直にどんな印象を持たれましたか?」
穏やかな口調を崩さないまま校長先生が私に聞いてきた。
「えっと......」
どんな発言を期待されているのか分からない。
診断名を言えばいい?でも、検査したわけでもないし、印象だけで障害名なんて出していいわけがない。そもそも病気や障害名の診断は医師以外には許されていない。じゃ、どうしたら工藤くんの様子が伝わるんだろう......。
慎重に言葉を選ぼうとすると何も出てこない。頭が真っ白になる。
そんな私の様子を男はジッと見ている。
脂汗が浮いた肌に、たるんだ頬。生理的に受け付けないタイプだ。値踏みするような視線がいやらしく肌にまとわりつく。
「工藤くん......とっても辛そうでした。守秘義務がありますので、話の内容まではお伝えすることはできませんが、とっても辛そうに頭を抱えていて......助けが必要な子なんだって思いました」
私が必死に絞り出した言葉にぶつけるように男は言う。
「助け?助けが必要な奴がどうして、大樹を殴るんだよ!学校は加害者を助けて、被害者にはなんにもなしなんか!?」
すると校長先生が口調を崩さないまま言う。
「ごめんなさいね。来たばかりなのに、急に話を振ってしまって。でも、ありがとうございます」
そして男に向かってこう言った。
「広瀬さん。先ほど来、お伝えしておりますが、工藤くんにはカウンセリングを受けてもらっています。今回工藤くんの暴行に関して、一週間の謹慎と、反省文の提出、そして継続的なカウンセリングが今までの措置です。もちろん、それで終わりとは考えておりません。随時教育委員会の判断を仰ぎつつ、その後も継続的な見守りとともに、適宜指導していくつもりです。現時点ではこれ以上お伝えすることはできません」
「継続的なカウンセリングねぇ......暴力沙汰起こしておいて、こんな綺麗な姉ちゃんと2人きりになれるなんて、学校ってのは正義もへったくれもないなぁ」
そう言うと先ほど感じたよりも露骨にいやらしい目をこちらに向けてくるのを感じ、背中がゾワッとした。
――なんなの、この下品な男は?
「広瀬さん、今どきそういう発言は控えていただかないと、学校としてもことを大きくしないといけなくなります。広瀬さんはどこまで今回の件を大きくなさるおつもりですか?」
「事なかれ主義の学校がねぇ。まぁ、いいわ。工藤のこと、ちゃんと躾といてくれよ。俺は曲がったことが大嫌いなんだ」
あんたも随分曲がってそうですが?
私が心の中で毒づけたのは、校長先生のお陰だ。
「学校は日々子ども達のために誠心誠意対応しております。今回の件、工藤くんだけでなく、広瀬くんにとっても、必ず成長の糧にしていけるよう努めてまいりますので、今後もお気づきのことがあれば、お知らせください」
「お、おぅ」
校長先生......カッコいい。
こうして男は帰って行った。
結局、私は何もできなかった......。
私はなんのために呼ばれたんだろう?
ーーーーーー
最新話です。次回の更新をお待ちください。
職員室の先生方の顔を思い浮かべる......「えっ?私???」
全く予想していなかった指名に、頭が一瞬遅れて呼ばれたのが自分だということに気づいた。
なんだろう......?絶対いい話じゃない。
そう思いながら、おずおずと職員室の前に出て行くしかない私の後ろ姿......金井先生にどう見られてるかなぁ。
「あぁ、加納先生、よかった。今2年3組の広瀬っていう生徒の親が来ていまして」
「あ、はい。さっき林田先生に聞きました」
「じゃ、話は早いですね。工藤について、怒っちゃってまして。加納先生から、工藤がどういう子か説明してあげてください。どうにも私たち教師はそっち系専門じゃないですから、納得してくれなくて」
私は心の準備もできないまま、半ば強制的に職員室前方から校長室に抜けるドアに通された。
「失礼します」
私が入室してきたのを確認した校長先生が穏やかな口調で言う。
「こちらが、本校スクールカウンセラーの加納です」
校長先生に紹介されて、私は反射的に頭を下げて挨拶をする。
「はじめまして。カウンセラーの加納です」
頭を上げた私の視線の先には、応接ソファーに座ったまま私をいぶかしがるような目で見つめる中年男性がいた。
「で、この子がどうしたって?」
今、この人、私のこと「この子」って言った?
バカにされている感じが悔しいが、表情に出さないように笑顔を作った。
「加納先生、先週工藤くんと会っていただきましたね。率直にどんな印象を持たれましたか?」
穏やかな口調を崩さないまま校長先生が私に聞いてきた。
「えっと......」
どんな発言を期待されているのか分からない。
診断名を言えばいい?でも、検査したわけでもないし、印象だけで障害名なんて出していいわけがない。そもそも病気や障害名の診断は医師以外には許されていない。じゃ、どうしたら工藤くんの様子が伝わるんだろう......。
慎重に言葉を選ぼうとすると何も出てこない。頭が真っ白になる。
そんな私の様子を男はジッと見ている。
脂汗が浮いた肌に、たるんだ頬。生理的に受け付けないタイプだ。値踏みするような視線がいやらしく肌にまとわりつく。
「工藤くん......とっても辛そうでした。守秘義務がありますので、話の内容まではお伝えすることはできませんが、とっても辛そうに頭を抱えていて......助けが必要な子なんだって思いました」
私が必死に絞り出した言葉にぶつけるように男は言う。
「助け?助けが必要な奴がどうして、大樹を殴るんだよ!学校は加害者を助けて、被害者にはなんにもなしなんか!?」
すると校長先生が口調を崩さないまま言う。
「ごめんなさいね。来たばかりなのに、急に話を振ってしまって。でも、ありがとうございます」
そして男に向かってこう言った。
「広瀬さん。先ほど来、お伝えしておりますが、工藤くんにはカウンセリングを受けてもらっています。今回工藤くんの暴行に関して、一週間の謹慎と、反省文の提出、そして継続的なカウンセリングが今までの措置です。もちろん、それで終わりとは考えておりません。随時教育委員会の判断を仰ぎつつ、その後も継続的な見守りとともに、適宜指導していくつもりです。現時点ではこれ以上お伝えすることはできません」
「継続的なカウンセリングねぇ......暴力沙汰起こしておいて、こんな綺麗な姉ちゃんと2人きりになれるなんて、学校ってのは正義もへったくれもないなぁ」
そう言うと先ほど感じたよりも露骨にいやらしい目をこちらに向けてくるのを感じ、背中がゾワッとした。
――なんなの、この下品な男は?
「広瀬さん、今どきそういう発言は控えていただかないと、学校としてもことを大きくしないといけなくなります。広瀬さんはどこまで今回の件を大きくなさるおつもりですか?」
「事なかれ主義の学校がねぇ。まぁ、いいわ。工藤のこと、ちゃんと躾といてくれよ。俺は曲がったことが大嫌いなんだ」
あんたも随分曲がってそうですが?
私が心の中で毒づけたのは、校長先生のお陰だ。
「学校は日々子ども達のために誠心誠意対応しております。今回の件、工藤くんだけでなく、広瀬くんにとっても、必ず成長の糧にしていけるよう努めてまいりますので、今後もお気づきのことがあれば、お知らせください」
「お、おぅ」
校長先生......カッコいい。
こうして男は帰って行った。
結局、私は何もできなかった......。
私はなんのために呼ばれたんだろう?
ーーーーーー
最新話です。次回の更新をお待ちください。