『こころ日誌・インスペクシオ』#7 カチコミ
カチコミ
週が明けて、また金曜日が来た。
先週と同じように地下鉄から歩いて学校に向かう。違うのはこの日は突き抜けるような青空が広がっているということだ。それは同時に、突き刺すような陽射しが容赦なく降り注ぐ現実を意味する。UVカットカーディガンを着て、厚めに日焼け止めを塗り、日傘に守られながらの出勤。先週以上に汗が滲み出て気持ち悪い。
学校に着き、階段を上がって職員室に入る。
「こんにちは~」
いつもと同じように挨拶をするが、返事が返ってこない。いつもならこの時間、皆忙しそうに室内を動き回っているのに、皆それぞれの場所で立ち止まり黙っているか、近くにいる職員とヒソヒソ話をしているようで、どうにも職員室の雰囲気が物々しい。
「なにかあったんですか?」
私は一番近くにいた職員に話しかけた。
こちらを向いて答えてくれたのは小柄でふくよかな体型に眼鏡をかけている男性。教務主任の林田先生だ。
「いや、先週の件で、広瀬の親がカチこんできてるんだよ」
ん?
広瀬?
「えっと、広瀬って誰でしたっけ?」
「先週あの工藤と揉めた広瀬だよ。なんで工藤を退学にしないんだって言って来ててね。今校長室で校長先生と佐々木先生、田中先生が対応しているところ。だから、今日は連絡会も無理だね」
「あぁ、工藤くんに胸ぐらをつかまれたっていう......」
「いや、どうやら広瀬の訴えだと、それだけじゃなくて殴られたりもしたみたいなんだよ」
「え~、工藤くんが???」
前回私の前で頭を抱えてうずくまっていた様子を思い出す。
「取り敢えず今は上が対応してるから。今日工藤、授業後にまた予約入れてるから、見てやって」
「あ、今日は授業後なんですね」
「謹慎は1週間だから、もう復帰してるんだよ。それを聞いた広瀬んとこの親父が、それじゃ生ぬるいって思って、今日凸してきたってわけ」
「なるほど」
林田先生との会話を終えると、これから始まる一日のスケジュールを確認しなくてはと思い、非常勤用の机に歩を進める。
引き出しを開けて予約表の9月12日の欄を確認すると、確かに授業後一番最初の枠に「2年3組工藤カケル」と書いてある。
毎回4時間目に固定で入っている連絡会はなしの方向ということで、しばらく時間が空く。
顔を上げた私は、他の職員と同じように、職員室から通じる校長室への扉に意識を向ける。
中で一体どんな話がされてるんだろう...。
すると金井先生が私に寄ってきて話しかけてくれた。
「先生、今林田先生から、聞きましたよね」
「あ、はい。工藤くんの件で、相手の親が来てるって」
「広瀬くんっていうんですけど、この子もすごく幼い子なんです。ADHDで」
「あ、そうなんですね。じゃ、多動や幼さみたいな特性で、工藤くんを煽っちゃった可能性もありますか?」
「私、この子も絶対ケアが必要な子だと思うんですよね。すごく周りに見て欲しいって気持ちが強いように見えて」
と金井先生。
学校のトラブルって本当、お互い様なことが多い。
「まぁ、この件に関しては今校長先生が対応していますから、それを待つしかないですね」
「そうですね。ところで、今日この後、授業後に工藤くん入れてくれてますね。あれから先生、本人に聞いてくれたんですか?」
金井先生が工藤の意向を聞くという段取りになっていたことを思い出して聞いた。
「はい、一応私からも聞きました。『カウンセリングどうだった?』って。でも、『行っても無駄と思う』って結構拒否的だったんですよね」
無駄......。とても否定されたみたいで苦しくなるのを感じる。
「でも、結局佐々木先生の強権で、受けることになりました。本当、こんなんで大丈夫ですか?」
金井先生は佐々木先生の無理解さに失望しているようにも感じる。
「そうですねぇ。本人が希望してないと、難しいですね」
私と金井先生でこんなやり取りをしていると、不意に校長室のドアが開いた。
中から佐々木先生が出てくる。
「あ、終わりましたかね」
私がこそっと金井先生に言ったが早いか、
「加納先生!いますか?」
佐々木先生の大きな声が職員室に響いた。
先週と同じように地下鉄から歩いて学校に向かう。違うのはこの日は突き抜けるような青空が広がっているということだ。それは同時に、突き刺すような陽射しが容赦なく降り注ぐ現実を意味する。UVカットカーディガンを着て、厚めに日焼け止めを塗り、日傘に守られながらの出勤。先週以上に汗が滲み出て気持ち悪い。
学校に着き、階段を上がって職員室に入る。
「こんにちは~」
いつもと同じように挨拶をするが、返事が返ってこない。いつもならこの時間、皆忙しそうに室内を動き回っているのに、皆それぞれの場所で立ち止まり黙っているか、近くにいる職員とヒソヒソ話をしているようで、どうにも職員室の雰囲気が物々しい。
「なにかあったんですか?」
私は一番近くにいた職員に話しかけた。
こちらを向いて答えてくれたのは小柄でふくよかな体型に眼鏡をかけている男性。教務主任の林田先生だ。
「いや、先週の件で、広瀬の親がカチこんできてるんだよ」
ん?
広瀬?
「えっと、広瀬って誰でしたっけ?」
「先週あの工藤と揉めた広瀬だよ。なんで工藤を退学にしないんだって言って来ててね。今校長室で校長先生と佐々木先生、田中先生が対応しているところ。だから、今日は連絡会も無理だね」
「あぁ、工藤くんに胸ぐらをつかまれたっていう......」
「いや、どうやら広瀬の訴えだと、それだけじゃなくて殴られたりもしたみたいなんだよ」
「え~、工藤くんが???」
前回私の前で頭を抱えてうずくまっていた様子を思い出す。
「取り敢えず今は上が対応してるから。今日工藤、授業後にまた予約入れてるから、見てやって」
「あ、今日は授業後なんですね」
「謹慎は1週間だから、もう復帰してるんだよ。それを聞いた広瀬んとこの親父が、それじゃ生ぬるいって思って、今日凸してきたってわけ」
「なるほど」
林田先生との会話を終えると、これから始まる一日のスケジュールを確認しなくてはと思い、非常勤用の机に歩を進める。
引き出しを開けて予約表の9月12日の欄を確認すると、確かに授業後一番最初の枠に「2年3組工藤カケル」と書いてある。
毎回4時間目に固定で入っている連絡会はなしの方向ということで、しばらく時間が空く。
顔を上げた私は、他の職員と同じように、職員室から通じる校長室への扉に意識を向ける。
中で一体どんな話がされてるんだろう...。
すると金井先生が私に寄ってきて話しかけてくれた。
「先生、今林田先生から、聞きましたよね」
「あ、はい。工藤くんの件で、相手の親が来てるって」
「広瀬くんっていうんですけど、この子もすごく幼い子なんです。ADHDで」
「あ、そうなんですね。じゃ、多動や幼さみたいな特性で、工藤くんを煽っちゃった可能性もありますか?」
「私、この子も絶対ケアが必要な子だと思うんですよね。すごく周りに見て欲しいって気持ちが強いように見えて」
と金井先生。
学校のトラブルって本当、お互い様なことが多い。
「まぁ、この件に関しては今校長先生が対応していますから、それを待つしかないですね」
「そうですね。ところで、今日この後、授業後に工藤くん入れてくれてますね。あれから先生、本人に聞いてくれたんですか?」
金井先生が工藤の意向を聞くという段取りになっていたことを思い出して聞いた。
「はい、一応私からも聞きました。『カウンセリングどうだった?』って。でも、『行っても無駄と思う』って結構拒否的だったんですよね」
無駄......。とても否定されたみたいで苦しくなるのを感じる。
「でも、結局佐々木先生の強権で、受けることになりました。本当、こんなんで大丈夫ですか?」
金井先生は佐々木先生の無理解さに失望しているようにも感じる。
「そうですねぇ。本人が希望してないと、難しいですね」
私と金井先生でこんなやり取りをしていると、不意に校長室のドアが開いた。
中から佐々木先生が出てくる。
「あ、終わりましたかね」
私がこそっと金井先生に言ったが早いか、
「加納先生!いますか?」
佐々木先生の大きな声が職員室に響いた。