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夢を持つということ

夢を持つということ

ほとんどの人は生きてくる中で、夢を持つことの素晴らしさを語る人に出会ったことがあるでしょう。また義務教育においては、将来の目標を立てることを強く勧められます。ですが、カウンセリングを必要としている人の中にはこのような風潮にアレルギー的に拒否反応を示す人が一定数います。そういう人はなぜ将来について考えることを嫌がるのか、考えてみたいと思います。

そもそも夢とはなんでしょうか。それは、将来実現したい人生の目標と言えるのかもしれません。ある人は芸能界やスポーツ界といった華やかな舞台で活躍している自分を思い描くかもしれません。ある人にとっては大きな会社を経営して、たくさんの財産を築くことかもしれません。またある人にとっては、好きな人と結婚して子どもを持つことかもしれません。どんなものにせよ、当人にとって夢とは魅力を感じるものであるはずです。つまり夢を持つためには、物事に魅力を感じるという能力が必要になってくることが分かります。こう書くと、「そんなものは能力と言えるのか?物事になにも魅力を感じられない人なんているのか?」といった疑問の声が聞こえてきそうです。その疑問に答えましょう。物事に魅力を感じる能力が欠損している人は確実に存在します。それが私が冒頭で挙げた夢を持つことにアレルギー反応を示す人たちです。

ではどうしてその人たちは物事に魅力を感じることができなくなったのでしょうか。いくつか要因が浮かびますが、大きな要因としてはストイックな子育て環境があり、さらにその背景には過度の競争社会があるように思います。

ストイックな子育て環境と書きましたが、親が子どもに理想を持つのはとても自然なことで、好ましいことでもあります。誰だって子どもが生まれたら、こんな子に育ってほしいという願いを持ちます。ここまではありふれた話なのですが、中には子どもの人生に対し、親の理想に最短距離で到達できる(はずの)ルートを用意しようとする人がいます。そのような親にとって親の目標と関係のない活動は、理想を妨げるものでしかなくなってしまう可能性があります。一昔前の親は我が子をみて、「勉強もしないで遊んでばかりいる」と嘆いていました。それが現代では「ゲームばかりしている」「動画ばかり見ている」に変化してきていますが、その嘆きに共通しているのは娯楽の否定です。親の理想に最短距離で到達するためには娯楽なぞにうつつを抜かしている場合ではないということですね。ここに少しでも遅れたら、もう目標の到達なんて無理になってしまうという過度な競争社会の問題が見えます。もちろん表だって娯楽を全否定する人はそう多くはないかもしれません。ですが、楽しんでいる子どもを見て叱らないまでも、些細ではあるものの不機嫌な態度を取ったり、不安な顔をしたりすると、その空気は子どもに伝わります。これを積み重ねることで、子どもにとって人生を楽しむことは堕落したことであり、悪いことだとすり込まれていくのです。

このようにすり込まれた子どもたちはいつしか楽しむ心のセンサーに蓋をするようになります。センサーに蓋がされますから、楽しむ心はかなり鈍っています。そうそう楽しみを見いだすことができません。でもやっぱり人生には楽しみが必要なんですね。そうなると分かりやすい楽しみを提供してくれるゲームや動画でしか、その心を満たすことができなくなっていきます。この状態は子どもにとって二重に悪影響を及ぼします。一つはもとから楽しみを感じることができないので、いくらそれらの行動をしても決して満足しないということで、多大な時間が浪費されること。そしてさらに深刻なのが、それらの依存行動をすればするほど、「自分はどうしようもない駄目な奴だ、救いようのない怠け者だ」という信念を強めてしまうことです。

ここで話を物事に魅力を感じる能力に戻しましょう。物事に魅力を感じるとはその活動に楽しみや喜びを見いだすことです。言いたいことはもう分かりますよね。楽しむ心に蓋をしている人にとってはとても難しいことです。そしてなにも楽しみを見いだせない人は、どんな活動にも魅力を感じないのに、夢なんて持てるわけがないと思ってしまうわけですね。それなのに夢を持てと言われると、それをひねり出すのに膨大なエネルギーが必要になります。「とても無理」と思ってしまっても不思議ではありません。それが冒頭で述べたアレルギー反応の正体なんですね。

私はカウンセリングにいらっしゃる親御さんに、子どもに楽しむ機会をできるだけ与えてもらうようにお願いしています。しかもさまざまなチャンネルで楽しんでもらいます。子どもがなにに引っかかるかは分かりません。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるです。三日坊主でもいいんです。楽しみを経験することで、今日が楽しい日だったという感覚を持ってもらえたら大成功です。その積み重ねは「生きることって楽しいんだ」という感覚を育てます。子どもが「将来Youtuberになる」と言っても、眉をひそめないであげてください。その夢は明日にはプロ野球選手になっているかもしれませんし、次の週には宇宙飛行士になっているかもしれません。それらの楽しい夢を思い描くことが、未来へ向けた子どもたちの本当の夢を育てていくのです。