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希望

増え続ける不登校

不登校の現状

私が20年ほど前にスクールカウンセラーを始めた頃、不登校生徒は全国で約10万人とされ、それが深刻な問題と見なされていました。しかし現在では、不登校生徒は全国で30万人に達しているそうです。この現状を踏まえ、不登校対策としてのスクールカウンセラー(SC)の配置が効果を上げていないと結論づける人も多いでしょう。

カウンセラーへの批判

現場でも「カウンセラーは聞いてくれるだけで、何もしてくれない。それでは改善するわけがない」とか、もっと直接的に「SCは役に立たない」といった批判の声を聞くことがあります。そのたびに身につまされる思いがします。私も実際に、様々な不登校の子どもたちと関わってきましたが、その中には学校に復帰できた子もいましたが、できないままお別れした子も多くいます。

カウンセラーの寄る辺

ここで、スクールカウンセラーが不登校を減らせない理由や、SCと不登校の子どもたちの間で何が起こっているのかについて、私の考えを述べたいと思います。様々なSCがいるので一概には言えませんが、多くの臨床心理士は、カール・ロジャーズが提唱した来談者中心療法という考えをその根っこに持っています。来談者中心療法の根幹は受容と共感です。カウンセラーが受容的な態度でクライアントの訴えに共感を示すことで、クライアントが自己実現に向かうという仮説に基づいています。そもそもこの仮説自体を信用できないという人もいるかもしれませんが、現在では世界中のカウンセラーの一般教養とも言える考え方です。ですから、完全に否定されるものではないでしょう。私もこの考え方にはある程度賛同しています。ただし、受容と共感だけではうまくいかないケースもありますので、そのことについてはまた別の機会に話したいと思います。

不登校の子どもの自己実現

全国で、多くの不登校の子どもたちに来談者中心療法の考えを取り入れたカウンセリングが実践されてきました。ですが、改善が見られないケースは多いです。先ほどの仮説を信じるならば、子どもがカウンセラーに自身の胸の内を吐露し、それを共感的に受け止めてもらえたと感じることで、自己実現に向かうのではないでしょうか。その結果子どもは学校に行けるようになるはずですよね。それでも不登校が続くと言うことは、何がおかしいのでしょうか。考えられることとして、そもそも学校復帰が子どもの自己実現ではないのかもしれません。さらに言うならば、学校に行かないという選択(意図的な選択でなくても)こそが自己実現の一部である可能性があります。

子ども達からのメッセージ

平成の失われた30年、令和のコロナ不況により、いつも下を向いている大人たちを見て、子どもたちは「こんな人生を歩みたくない」と感じているのかもしれません。「学校に行くことが本当に価値があるのか?」「つらい思いをして頑張ったところで、いいことなんかない。それなら、頑張って学校なんて行っても仕方がない」というのは至極自然な考えに思えます。不登校が増え続ける現状は、子どもたちから大人に向けた強烈なメッセージなのかもしれません。

大人が子どもに希望を届けること

誤解のないように言いますが、私は不登校でも仕方がないと言っているわけではありません。やはり子ども達により幸せな未来を届けたいと思っています。だからと言って経済を一瞬で立て直す方法はありません。ですが、私たち大人がどんな状況でも希望を捨てず、未来は明るいという信条を持ち続けることはできます。「どんなに頑張っても給料が上がらない世の中にどう希望を見いだせばいいのか?」という疑問はあるでしょう。それこそ、子どもが学校に対して感じていることと同じ訴えです。「それでも、大人たちは働き続けている」と反論したくなりますか。「そうはなりたくない」「希望の無い中で無意味に頑張りたくない」というのが子どもの自己実現に向けたメッセージである可能性があるわけです。
そう考えると、我々大人たちが希望を捨てず、しんどくても「世の中を少しでも良くしていくんだ」と子ども達に笑顔を見せること。その機運を高めることは不登校対策の一助になりそうです。