トラウマケアとしての催眠療法
こころを「麻酔」する繊細な技法として
催眠療法って?
久しぶりにこのコラムを書いています。最近は「こころ日誌」の更新が中心でしたが、もちろん本業である日々のカウンセリングも変わらず続けています。
さまざまな方と向き合う中で、傾聴を中心に据えたカウンセリングだけでは、なかなかクライアントの期待に応えるのが難しいケースがあることを痛感しています。特に、愛着に課題を抱えた方々に対しては、「話す」こと自体が既に大きな負担となっている場合が多いのです。
そうした方々に対して、私はさまざまな技法を使い分けていますが、その中でも提案頻度が高いのが「催眠療法」です。
催眠療法は、本来想起するだけで恐怖を感じるはずのトラウマ記憶に、安心して向き合う心理状態を作り出すことができ、とても有用な心理技法です。しかしクライアントによっては、催眠と聞くと、誤解を持つ方が少なくなく、そのたびに説明を重ねながらクライアントの同意を得ています。今回は、この繊細な心理技法である催眠について、正しい理解の一助となるよう書いてみようと思います。
さまざまな方と向き合う中で、傾聴を中心に据えたカウンセリングだけでは、なかなかクライアントの期待に応えるのが難しいケースがあることを痛感しています。特に、愛着に課題を抱えた方々に対しては、「話す」こと自体が既に大きな負担となっている場合が多いのです。
そうした方々に対して、私はさまざまな技法を使い分けていますが、その中でも提案頻度が高いのが「催眠療法」です。
催眠療法は、本来想起するだけで恐怖を感じるはずのトラウマ記憶に、安心して向き合う心理状態を作り出すことができ、とても有用な心理技法です。しかしクライアントによっては、催眠と聞くと、誤解を持つ方が少なくなく、そのたびに説明を重ねながらクライアントの同意を得ています。今回は、この繊細な心理技法である催眠について、正しい理解の一助となるよう書いてみようと思います。
催眠にまつわる誤解
まず多くのクライアントに、そもそも催眠ってどんなものと思っているか聞くと、その反応は大体以下の3種類に分かれるように思います。
①「手がくっついて離れなくなる」「水がお酒に変わる」といった“ショー催眠”のイメージを持っているクライアント。
②「自分が分からなくなりそう」「自分じゃない自分が出てくるのでは」という不安を覚えるクライアント。
③「怪しい」「術者に操られるのでは」といったイメージから、怖いと思うクライアント。
ですが、これらのイメージは、実際の催眠療法とは微妙に異なるものです。
以下にそれぞれ説明していきたいと思います。
①「手がくっついて離れなくなる」「水がお酒に変わる」といった“ショー催眠”のイメージを持っているクライアント。
②「自分が分からなくなりそう」「自分じゃない自分が出てくるのでは」という不安を覚えるクライアント。
③「怪しい」「術者に操られるのでは」といったイメージから、怖いと思うクライアント。
ですが、これらのイメージは、実際の催眠療法とは微妙に異なるものです。
以下にそれぞれ説明していきたいと思います。
①ショー催眠のイメージ
「手がくっついて離れなくなるんでしょ?」「遊びでかけてみてよ」と言う人がいます。ですが、私はそういう催眠の使い方はしません。なぜか?催眠療法は、苦痛軽減のための心理技法であり、治療の文脈においてのみ慎重に使われるべき物だからです。
たとえば、外科手術では痛みを和らげるために麻酔を使います。健康な人に意味もなく麻酔をかけて、「ほら、痛みを感じなくなったでしょ」とはやりませんよね。麻酔に対するアレルギー反応や神経系に負の影響を及ぼすリスクは常にあるからです。
催眠もそれと同じです。トラウマに向き合う際の“心理的苦痛”をやわらげる麻酔として使うのです。誤誘導やカタレプシー(深い催眠状態からの回復に時間がかかる場合もある)の可能性が全くないわけではありません。もちろん必要で催眠を使う際にはそういうことが起きないように細心の注意を払いますが、遊びで使っていたずらにリスクを発生させていいものではありません。
たとえば、外科手術では痛みを和らげるために麻酔を使います。健康な人に意味もなく麻酔をかけて、「ほら、痛みを感じなくなったでしょ」とはやりませんよね。麻酔に対するアレルギー反応や神経系に負の影響を及ぼすリスクは常にあるからです。
催眠もそれと同じです。トラウマに向き合う際の“心理的苦痛”をやわらげる麻酔として使うのです。誤誘導やカタレプシー(深い催眠状態からの回復に時間がかかる場合もある)の可能性が全くないわけではありません。もちろん必要で催眠を使う際にはそういうことが起きないように細心の注意を払いますが、遊びで使っていたずらにリスクを発生させていいものではありません。
②自分が自分でなくなる不安
私はこういう訴えをするクライアントに対して、いつもこんな話をします。
「僕の知り合いで酒の席での失敗がとても多い人がいる。いつも酔っぱらっては周りの人に絡んで不快にさせるんだ。酒癖が悪いと言えばそこまでだが、その人は次の日には自分が何をしたか全く覚えてないんだよ。だから、いつも僕は言うんだ。君はちゃんと介護してくれる信頼できる友人がいない場所では酒は飲まない方が良い」と。
そこまでじゃなくても、酒に酔うと、笑い上戸になったり泣き上戸になったりする人がいますよね?あれは、普段抑えている自分を一時的に緩めて、心地よい解放感を得ようとする行動です。その時のその人は「自分じゃない自分」が出ています。その結果緩み過ぎると僕の友人みたいになってしまうと言う話です。
催眠では、あえて安心な環境下で意識を緩め、自分の内側へと静かに“トリップ”するように導いていきます。これを「トランス状態」と呼びます。
この状態では、自我の影響力が一時的に弱まり、普段抑えていた感情がふと浮かび上がることがあります。この感覚は酒に酔っているときにとても似ているわけです。
そして、普段の自分ではないトランス状態の自分だからこそ、安全にトラウマに向き合えるのです。
ですが、ここで大事なのは、トランス状態で安全にトラウマに向き合うには、信頼できる援助者がそこにいてくれる必要があるというです。
「僕の知り合いで酒の席での失敗がとても多い人がいる。いつも酔っぱらっては周りの人に絡んで不快にさせるんだ。酒癖が悪いと言えばそこまでだが、その人は次の日には自分が何をしたか全く覚えてないんだよ。だから、いつも僕は言うんだ。君はちゃんと介護してくれる信頼できる友人がいない場所では酒は飲まない方が良い」と。
そこまでじゃなくても、酒に酔うと、笑い上戸になったり泣き上戸になったりする人がいますよね?あれは、普段抑えている自分を一時的に緩めて、心地よい解放感を得ようとする行動です。その時のその人は「自分じゃない自分」が出ています。その結果緩み過ぎると僕の友人みたいになってしまうと言う話です。
催眠では、あえて安心な環境下で意識を緩め、自分の内側へと静かに“トリップ”するように導いていきます。これを「トランス状態」と呼びます。
この状態では、自我の影響力が一時的に弱まり、普段抑えていた感情がふと浮かび上がることがあります。この感覚は酒に酔っているときにとても似ているわけです。
そして、普段の自分ではないトランス状態の自分だからこそ、安全にトラウマに向き合えるのです。
ですが、ここで大事なのは、トランス状態で安全にトラウマに向き合うには、信頼できる援助者がそこにいてくれる必要があるというです。
③術者に操られそうで怖い
こう感じる方にこそ、お伝えしたいことがあります。
トラウマを抱えた時点で、その人の人生はすでに過去の傷によって“操られて”いるのです。学校に行きたいと頭では思っているのに、トラウマに操られて学校に行けない。愛すべき人を心から愛したいし、それを伝えたいと思っているのに、トラウマに操られて怒ってしまう。ギャンブルや暴力を止めたいと思っているのに、トラウマに操られて止められない。過去のトラウマが人生に及ぼす負のコントロールは枚挙に暇がありません。
そしてそれは人を過去に縛り付け、今を生きるための、そして、未来に向けるべきエネルギーを奪っているのです。
そして、催眠療法はクライアントを操るためではなく、むしろ過去のコントロールからクライアントを解放する手段なのです。
トラウマを抱えた時点で、その人の人生はすでに過去の傷によって“操られて”いるのです。学校に行きたいと頭では思っているのに、トラウマに操られて学校に行けない。愛すべき人を心から愛したいし、それを伝えたいと思っているのに、トラウマに操られて怒ってしまう。ギャンブルや暴力を止めたいと思っているのに、トラウマに操られて止められない。過去のトラウマが人生に及ぼす負のコントロールは枚挙に暇がありません。
そしてそれは人を過去に縛り付け、今を生きるための、そして、未来に向けるべきエネルギーを奪っているのです。
そして、催眠療法はクライアントを操るためではなく、むしろ過去のコントロールからクライアントを解放する手段なのです。
トラウマケアとしての催眠療法
トラウマ体験では、怒り・悲しみ・恐れなどの強い感情が抑圧されることが多くあります。
催眠状態では、それらが自然なかたちで表面化しやすくなり、「言いたかったけど言えなかった気持ち」や「何となく感じていたけど言語化されなかった思い」が静かに吐露されていきます。
そして何より大切なのが、その吐露された“本音”が受け止められ、認められるという体験です。
まるで膿を排出したあとの消毒や包帯のように、感情の傷にも“受容”と“承認”が必要なのです。
その瞬間、心の奥に溜まっていた重苦しいものが流れ出し、身体の深部から深い解放感が広がっていきます。呼吸は深くなり、自律神経が整い、トラウマに由来するさまざまな症状が和らいでいくのです。
催眠状態では、それらが自然なかたちで表面化しやすくなり、「言いたかったけど言えなかった気持ち」や「何となく感じていたけど言語化されなかった思い」が静かに吐露されていきます。
そして何より大切なのが、その吐露された“本音”が受け止められ、認められるという体験です。
まるで膿を排出したあとの消毒や包帯のように、感情の傷にも“受容”と“承認”が必要なのです。
その瞬間、心の奥に溜まっていた重苦しいものが流れ出し、身体の深部から深い解放感が広がっていきます。呼吸は深くなり、自律神経が整い、トラウマに由来するさまざまな症状が和らいでいくのです。
最後に
もしあなたの中にも、まだ見つめられていない痛みがあるなら——
その感情に優しく麻酔をかけて、静かに向き合ってみませんか。
催眠は、その“最初の一歩”を支える心の技術なのです。
『山の香りカウンセリングサービス』ではあなたの奥底にある本当の願いに光を当て、過去からの真の開放を手助けします。
その感情に優しく麻酔をかけて、静かに向き合ってみませんか。
催眠は、その“最初の一歩”を支える心の技術なのです。
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