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人を信じると言うこと

人を信じると言うこと

クライアントの声

「私は人が信用できないんです」
「人なんて信用しない方が良いですよね」
「人は必ず裏切るから」
私はこれまで私のクライアントがこのような意味合いのことを言うのを何度も聞いたことがあります。また、カウンセリングというセッティングで、クライアントを援助しようとしているカウンセラーである私に対してあからさまに敵意を向けてくる人もいます。「カウンセリングなんて信用しない」「話してなんになるの?」「薄っぺらい茶番」というようなことを実際に伝えられたことも、一度や二度ではありません。更にそういう人の中には初対面でまだ何も情報のやり取りをする前から私に対して、怒っているような人もいるのです。
中には入室するなり、ギロリとした目で私を睨みつけて「私、別に何も期待していませんから」と言った人がいました。そういうクライアントにお会いするときには、こちらもとても緊張します。何か下手なことを言おうものなら全力で攻撃されるのかもしれないという気持ちにさせられるからです。
でも実は、私が緊張して怖い気持ちになっているのは、クライアントの気持の写し鏡です。人の気持ち、中でもネガティブな気持ちって伝播し易いです。なので、そういうとき、クライアントの持っている気持ちが私に伝播してきているんだと理解するようにしています。

困り感の裏にあるもの

基本的にカウンセリングに援助を求めてくるような人は日常生活で何らかの困り感がある人です。そして、彼ら/彼女らの困り感と、ここで話しているような信用できない気持ち、緊張する気持ち、怒りの気持ちは無関係ではないと私は感じています。
と言うのも、生活の中で感じる困り感、中でもカウンセリングに頼るような主訴の中身の多くは過去の傷つき体験、つまりトラウマです。
トラウマを受けた人の多くは、無意識的に次のどちらかの考えが行動を支配します。
ひとつには、「過去に傷つき体験をしてとても辛い思いをした。もうあんな思いをしたくない。だから、もうあんなことが起こらないように気を付けて行動しよう」というもの。もう一つは、「あんな辛い思いをして自分はなんとか生き残ってこれた。このやり方を続けていれば間違いない」というものです。
どちらの考え方も、実際に目の前に危機があるときには有効なのだと思います。ですが、困ったことに、目の前の危機が去った後にもそのやり方が抜けないのです。それが色々な問題を生じさせます。

トラウマと信頼の難しさ

例えば、人を信用して傷つけられた経験をすると、「もう二度と人なんて信じない」と思うかもしれません。また、恐怖体験を全神経を覚醒させて生き抜いた人は、その状態が常に続き、ちょっとした刺激にも過剰に反応してしまうことがあります。そうした人にとって、「あなたを援けます」と看板を掲げるカウンセラーは、むしろ敵のように見えるかもしれません。だから、絶対に心を許さないし、その表明として最初から戦闘モードで来談するのです。

人が人を信じる理由、信じない理由

それでも、不思議なことにカウンセリングの場に来るんですね。中には「お前は偽善者だ。お前の善人面した化けの皮を剥いでやる」と血気盛んに来られる方もいらっしゃいますが、多くはそうではありません。私はカウンセリングの中で冒頭のようなことを言われたとき、「そうなんですね。あなたは人を信じられないんですね。でも、どうしても信じたい気持ちを捨てられないみたいに見えますよ」と伝えることがあります。
そうなんです。「人を信じられない」人は、そのことがとても辛いのです。だから、人を信じたくて仕方がないんです。と言うのも、人間は常に安心を求める本能があります。人を疑わなくてよくなれば、こんなに安心なことはありません。安心したいのです。だから信じたいのです。でも、信じられない。その葛藤に苦しんでいます。

学校で周りからいじめられる経験をしたとします。周りの人が悪意をもってその人をいじめてくる。客観的に見たら全員がその人をいじめているわけじゃないんでしょうけど、その人にとってはみんながいじめてくるという体験になります。そういう体験をすると、全員が悪意がある人と感じてしまう。更にそんな中に、前は仲良しだと思っていた友達が入っていたら尚更です。「信じていたのに裏切られた。こんな辛い思いするなら最初から人なんて信じない方が良い。もう人を信じるのが怖い」ってなっちゃうのも理解できます。

見積もりと悪循環

確かに信じて裏切られるのって、本当辛いですよね。そして世の中には一定数、悪意を持って近づいてくる人がいるのも事実です。その他者の悪意をどれだけ正確に見積もれるかが上手に生活する上で大事なんだと思います。そして、その見積もりが上手くない人が、困難を感じやすい人です。悪意を少なく見積もりすぎると、悪い人に簡単に騙されてしまいます。そして傷つきます。悪意を多く見積もるすぎると、皆を自分から遠ざけます。周囲を遠ざけると寂しくなってとても不安になります。そうするとまた誰かにすがって悪い人に裏切られるといった悪循環に陥ります。

人を信じることのメリット

人を信じることのデメリットとして、「人を信じることで裏切られたときに傷つきのダメージが大きい」というのは分かりやすいですね。一方、「メリットなんて思い浮かばない」と言う人がカウンセリングに来る人には多いように思います。
だから私はクライアントに伝えます。「人を信じることで、相手に対してオープンになれますよ」と。オープンになると心を近づけてお互いを理解し合えるようになります。お互いを理解し合うことで、相手に対する許容量が増します。そうすると、お互いに気を遣わなくて済むようになるのです。気を遣わなくて済めば、人とのやり取りに過度に慎重になる必要がなくなり、自然なコミュニケーションが可能になります。
コミュ障なんて言葉が市民権を得ている時代ですが、コミュニケーションが苦手な人でも、気を許せる相手には普通にコミュニケーションってできているものです。
そして、そういった気を遣わなくていい自然なコミュニケーションはそれだけで心的エネルギーを補充してくれます。一方警戒感を持ったコミュニケーションは心的エネルギーの消費が激しいものです。だから、楽しく一日遊んだ時と、一日仕事したときで体の疲労は同じでも、心的な疲労感が全然違うのです。そして心的疲労の蓄積は不登校や引きこもりの重大な要因となりえます。

最後に

『山の香りカウンセリングサービス』では信じたい気持ちをちゃんと実現できるカウンセリングメニューを用意しています。他者に対する不信感を払拭したい人は是非ご利用ください。