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こころ日誌#9

抵抗。そして・・・。

その後、待てど暮らせど母親からの連絡が来ないままに、約束の2月3日を迎えた。この日は前回のような大雪とは打って変わって朝から快晴であったが、その分、空気が乾燥しており、前回にも勝るとも劣らない寒さだ。私は午前中は外仕事で外出しており、相談室に到着したのは12時を回っていた。 急いで薪小屋から薪を運び、薪ストーブに火を入れるが、鋳物の薪ストーブは温まるのに時間がかかるという欠点がある。カオリとは13時に約束をしているが、1時間弱でどれだけ温まるかというと期待薄である。仕方なく、客に出すためのお茶用のお湯は電気ポットで沸かす。更に余り本意ではないのだが、灯油ファンヒーターを奥の収納スペースから取り出す。今回のようなときのために用意してあるものだ。薪ストーブが十分に温まるまでのつなぎの暖房である。本意でないのは、薪ストーブがあるのにファンヒーターを使っているのが少し格好悪い気がするからだ。だから、ファンヒーターの設定温度を最高まで上げて、短時間で部屋を暖めたらファンヒーターはまた奥にしまいたい。人間の見栄とはなんと阿保らしいものかと自嘲する。

今更何も変わらないが一応前回の記録を確認するため、パソコンを起動する。しばらく時間を置いてデスクトップが起ち上がると、「ピロ~ン」という機械音とともに、新着メールのお知らせが入る。メーラーをクリックすると、受信箱の一番上に未読マークとともに「form: Yamano Tomoko subject: 本日のカウンセリングについて」という項目が私の目に入ってきた。 私は前回の内容から、もしかしたらキャンセルになるのかもしれないことを覚悟してメールを開いた。

「山の香りカウンセリングサービス代表 鈴木様                             
                       受信日時  20〷+1/2/3 10:23
お世話になっております。
本日約束していたカウンセリングですが、カオリが急な体調不良で伺えそうにありません。
ですから、前回のお話もありますし、私一人でお伺いしてもよろしいですか?
お返事お待ちします。

山野とも子」

時計を確認したら、12時30分を回ったところだ。 メールで返信するより電話をかける方が確実だと判断し、すぐにケースフォルダから「山野カオリ」と書いてあるファイルを見つけてダブルクリックする。セッションの記録の一番上にある登録情報の欄を見つけると項目に目を走らせる。「090‐○○○○‐○○○○」母親の携帯番号を見つけるとすぐに相談室の固定電話から電話をかける。 数回の呼び出し音が止まると、いつものハスキーな声で「はい、山野です」という声が聞こえた。

「山野さん、ご連絡遅くなってごめんなさい。山の香りカウンセリングサービスの鈴木です。今メール見ました」
「そうですよね。こちらこそ直前の連絡になってしまって本当にすみません」
「今日はお母さんだけでいらっしゃいますか?」
「はい。そのつもりで、実はもう家を出て向かってるところなんです」
「あ、ごめんなさい。私の返事が遅くなってしまったばっかりに。今、運転中でしたか?」
「ハンズフリー通話ですから、大丈夫ですよ。私だけで伺っても大丈夫ですか?」
「もちろんです。お待ちしておりますね」
「では後ほど~」
「はい、失礼します」

相手が通話を終了したのを確認して、電話の子機を充電器に戻す。 母親の電話の声は落ち着いており、前回と比べて明るさを取り戻している。これから私と会うことについて、緊張はあまりなさそうな印象だ。 一方カオリの体調不良は気がかりだ。やはり前回のセッションはカオリにとって負担が強すぎたのだろうか。少なからずカウンセリングに対する抵抗が出ることは予想された。前日までに連絡がなかったので、どうかと思っていたが、母親が来談されるということで、ケース自体はつながれたことに、ホッとする。 当日キャンセルの場合は100%のキャンセル料をいただくことをホームページで明記しているし、そのことは初回に母親に伝えてあった。もちろんケースの中断を防ぐことを期待しての取り決めであるが、母親の今回の来談が、そのことを気にしてのことかは分からない。
また、枠の問題もある。母親をこのケース全体の中でどう位置づけるか、考え直さないといけない。
カオリに力を取り戻してもらうのが第一目標だ。
初回の方針に立ち返って、母親の共感不全も治療ターゲットにするということはできる。だが、その為には、やはり一度、仕切りなおして、そのことを母親に伝えないといけないだろう。

そんなことを思いながら、もう一度記録を読み返す。集中して読んでいたのか、いつの間にかぼんやりしてしまったのか定かではないが、気づかないうちに時計は13時に差し掛かるところだ。

「ピンポ~ン」

インターホンが鳴る。私は我に返り応対ボタンを押すと先ほどの電話と同じ声が聞こえる。

「山野です~」

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