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こころ日誌#38

夫婦合同面接

週が明けて、次の木曜日ーーー17日。
私は朝から自分が落ち着かない気持ちでいるのを自覚していた。
夕方には山野家の夫婦合同面接を控えている。
隆志が仕事を調整して、平日にもかかわらず、とも子と二人で来談する意向を示してくれていた。

これまで2回zoom上で面談したが、実際に彼と会うのは今回が初めてだ。
隆志には、カウンセリングに対しての反応がやや分かりづらいという印象がある。しかし思えば、2回目の面接を翌週に入れてくれたり、今回も仕事をちゃんと調整してくれている。もしかしたら思いのほかカウンセリングに対するモチベーションが高いのかもしれない。
そう感じても尚、私がこのように落ち着かない気持ちになっているのは、その分、結果で応えないといけないというプレッシャーから来ていることを改めて自覚する。

プレッシャー・・・、圧力・・・、

私はそっと目を閉じて、自分の心にかかっている圧をイメージする。
わずかに息苦しい感じ、腹が重い感じ・・・食道がヒリヒリする感じ。
深くゆっくりと呼吸を繰り返しながら、その感覚にしばらく身を浸す。

「よし、大丈夫だ」

そっと目を開け、時計を見ると、もうすぐ17時になろうとしていた。


20〷+1年 10月17日  とも子#13 隆志#3 夫婦合同面接

「こうしてお二人と一緒にお会いするのは初めてですね」
二人の前に茶菓子を用意し私は話しかけた。
「あ、お茶出してくれるんですね」
隆志が少し顔を綻ばせて言う。これまでオンラインではなかったサービスであるが、とも子やカオリからもそのことは伝わっていなかったらしい。
「近所のスーパーで買ってきた安物ですが、すみません」
と私も笑顔で返しつつ、面接机を挟んだ位置に二人に正対して腰を下ろした。

「隆志さんがカウンセリングへの呼びかけに答えていただいてから少し段階を踏みましたが、今日ようやくこの形を迎えられたことを私はとても尊いことだと思っています。お二人の誠実な頑張りに心からの敬意をお伝えしたいと思います。隆志さんについてはお仕事も調整いただいたんですよね。とも子さんも大きな決意の下に今日来ていただいていると思います。本当にありがとうございます」
私は思いつく限りの歓迎の言葉を伝えたつもりだが、やや語彙に乏しいかと自嘲する。
「なんだか改めてそう言われると緊張しますね。実は今日は僕は会社から直行してきたんです。妻に駅で拾ってもらって来ました」と隆志。
「そうだったんですね。お忙しい中お越しいただいたんですね。ありがとうございます」
それに対して小さく頷く隆志の横で、とも子は表情を硬くしている。前回の決意表明から4週間、同じ家で隆志とカオリとどんな時間を過ごしていたのだろうか。様々な思いがあるであろうことに私も思考を巡らせる。
思えば私が先ほどまで感じていたプレッシャー、その何倍もの物をとも子は感じていたのかもしれない。

「まずは今日の場がどういう場かを確認させてください。これまでお二人に説明してきたことでもありますので、重複する部分もありますがご了承ください」
そう前置いてから私は伝えるべきことを伝えた。

「私は今日この場はカオリちゃんが作ってくれた場だと思っています。カオリちゃんの、お二人に楽しく過ごしてほしい。幸せになってほしい。そういう気持ちがこの場を作ってくれました」
二人は真剣な表情で聞いてくれている。
「隆志さんも平和を望んでいらっしゃるし、とも子さんも隆志さんとの関係をうまくしたいと思っていらっしゃる。その思いから、お二人がカオリちゃんに応えてくださいました。本当にありがとうございます。そしてお三方の思いを実現するために、今日の面接の中で、お二人がお互いの気持ちをより深く理解するように務めること。その過程で、お互いをできるだけ責めないこと、冷静に話し合うことを約束していただけますでしょうか」
この場にいる3人、誰にとってもこの場は安全な場であるという確認である。
それに対して、「わかりました」と隆志が言えば、「はい」ととも子も返事をした。

「ありがとうございます。それではまずは隆志さんは初めてですが、よくここでしています、呼吸合わせから始めさせてください」
これは、できるだけ呼吸を調律することで、互いの自律神経の波長を合わせることを狙いとしている。感情を安定化させ冷静な話し合いをしていくために、私が大切に思っている作業だ。
カオリが初めてここに来た時にした説明と同じように隆志にも説明し、私は手を上下に動かして呼吸を始めた。
時計を見ながら、二人の呼吸を1分間主導する。呼吸を導きながら「深い呼吸とともに、肩の力も首の力も抜いて、リラックスしていきましょう」と声をかける。
それが終わると、次の1分は隆志に、そして次はとも子にと、主導権を渡していく。そして最後にもう一度私が1分間呼吸を導いた。

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