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こころ日誌#20

カオリの申し出

その後は特に連絡もなく2週間が過ぎた。次の来談日、やはりいつものように母親とカオリと二人での来談である。
前回の来談時に話していた作戦会議だが、父親を誘うというのは、やはり難しいという母親とカオリの認識である。理由として、どう話題を切り出していいのか分からないとのことだった。父親は1月の雪の日以来、カウンセリングについて聞いてくることはない。学校に行けない日があることは父親も分かっているし、IBSの診断を受けたことは母親から伝えてはいるが、母親は、「そのときの主人の反応、正直分からないんですよね」と言う。「なんか、怒るわけでもなく、仕方ないとか受け入れるわけでもなく、もしかしたら興味ないのかなって思っちゃいます」とのことだ。
そういうことで、父親をカウンセリングの舞台に上がってもらうという方針は一旦とん挫し、カオリの心的エネルギーを上げ、学校場面での緊張を下げるためのトレーニングを継続するという方針に落ち着いた。

その後も、母親とカオリと二人の来談が続いた。毎回その後の様子を聞くところから始める。学校へは行けたり行けなかったりを繰り返していた。そんな中での会話である。
「先週、修学旅行行けたんです。2泊3日で東京の方に行ったんですけど、もうギリギリまで行くって言ったり行かないって言ったりで。その前の一週間くらいはずっとトイレに籠ってました。それで、学校も配慮してくれて、当日行けるパターンと行けないパターンを考えてくれたんですよね。で、当日の朝になって、本当出かけるギリギリまでトイレに入ってたんですけど、時間になって出てきて『行く』って。だから、私もその日は午前中休み取っていたので、集合場所の駅まで送っていったんです」と母親が語ると、「お母さん、心配し過ぎだよ。行くって最初から言ってたじゃん」とカオリ。「行く」と言ってみたと思えば「行かない」とも言ってたんだろうなと想像しながら、私もそこに乗っかり「カオリちゃん、頑張ったんだね。修学旅行どうでしたか?」と聞くと、「すごく楽しかったです。でも、お腹はずっと痛くて、ちょっとでも時間があるときはトイレに行っていました」と答えた。腹痛よりも旅行に行けた達成感の方が大きかったのだろう。答える表情は明るい。
そこに母親が付け足すように「でも、疲れたんだと思うんですけど、帰ってきてから次の日は本当にずっと寝てて、その後、今日まで学校休んでました。今日久しぶりに学校行けたね」と加えた。母親の話す表情も休んでいるカオリに対する攻撃的なニュアンスは感じない。

次の回では「今週テストだったんですけど、一応全部受けれました。学校は別室受験もOKしてくれてたんですけど、頑張ってみんなと一緒に教室で受けることができたんです」などと、カオリがなんとか学校生活に食らいついて行っている様子を話してくれた。

そんな経過が続いていくうちに、どんどん気温は上がっていき、外に出るにも肌を突き刺すような陽射しにたじろぐ季節を迎えていた。夏休みに入り、カオリは学校に行かなくてはという悩みから解放されたのか、とても体調が良いようだ。カウンセリング場面で見せる顔は、好きなゲームの話やハマっている動画の話を楽しそうにしてくれ、そこだけ見ると、どうしてこの子が不登校なのだろうと感じてしまうくらいだ。
そして、そんな夏休みも後半に入り、二学期の始まりを意識し始めるころ、母親からメールで連絡が入った。

Subject 「次回のカウンセリングについて」
                         受信日時  20〷+1/8/25 21:23
「いつもお世話になっております。
夜分に申し訳ありません。
次回のカウンセリングですが、カオリが一人で行きたいと言っています。
ですから、次回は私抜きでお願いします。
よろしくお願いします。
山野とも子」

文面を見て色々想像する。新学期が迫ってきて不安になってきたのか。でも、母親との関係性は大分改善されており、今は健全な母親をカオリに内在化させる作業を続けているところであり、できれば母親と合同で作業できた方がいいのだが。カオリもそれは分かっているはずだ。それでも一人で来談したいということは、母親に聞かれたくない話をしたいのだろうか。聞かれたくない話。。。様々な可能性を想像しながらも、そのとき私にできるのはカオリの来談を待つことだけであった。


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